Early Winter Road Trip
撮影旅後記


「いつか、rupeeの服を纏いながら旅をドキュメントしたいね」
ここ数シーズン、打ち合わせのときには必ずどのタイミングかで、だれかの口からこのフレーズがこぼれ落ちていた。そして、それがスイッチとなり、話が大きく逃避行していくのが常だった。

どちらかと言えば、波を求める多くの旅人を迎え入れる地域に住むぼくらは、コンスタントにブレイクする素晴らしいこの地の波を日々楽しむことができる。これは、本当にありがたいこと。 だけどやっぱり、「ここではない、どこか」へ向かってしまう心の浮気をいつまでも抑え続けることは、サーファーにとっては至難の業であることは間違いない。

「冬だもんね。雪、見たいよね。撮影だしね……。行っちゃおうよ、日本海!」 自分たちでみずからのタガを外せたら、もう話は早い。その場で今回の旅のメンバー、日程が次々に、しかも瞬く間に決定されていく。おまけに、大人6人が優に横になれるキャンピングカーのレンタル場所まで。さらに、出発前にボスからメールで送られてきた日本海の波高予報を開いた瞬間、なんとなく「撮影だから」と持っていくつもりのなかったシングルフィンを他の荷物と一緒に準備したことは言うまでもない。この季節特有のうねりを生み出す西高東低の気圧配置。寒い冬、そして日本海のサーフシーズンがこれから始まる。

The Scenic Beauty of Mountains

ぼくらはまず、新潟上越までの道程の途中に位置する妙高高原を目指した。暦は11月下旬に差しかかったばかりで、さすがにゲレンデのオープンはまだのようだが、紅と黄色が至極鮮明に色分けされた美しい紅葉を纏った山々も、早くから薄らと雪化粧をした峠の道も、南房総ではなかなか目にすることのない新鮮な情景。キャンピングカーを降り、雪景色の中フォトグラファーがレンズ越しにモデルを追うと、静かにさらさらと白い雪が降り始めた。まるで見計らったかのような山々の主からの突然の贈り物に、これからの旅の幸先の良さを感じずにはいられない。視界の遥か向こう側には、野尻の湖面が冬の始まりを告げるブルーグレーの空を大地の鏡のように写し出している。短時間に出逢えた多くの素晴らしい景色に名残を惜しみつつ、 明日のウェーブハンティングに備えて日本海の見える街へ、そして凍えたからだを温めるための名湯を探しに、山を下りてゆく。

Good Morning

降水確率90%の予報に反して、昨晩激しく降り続いた冷たい雨はすっかりあがった。そして、オレンジ色に眩しく顔を覗かせた朝陽の熱が街に伝わり、 冷えた空気にもやをかけている。多少雲はあるものの、見上げる空は青々としていて天気もよくなりそうだ。

寝ていた座席を元通りにして、北の海のコーストラインを西へと向かう。昨日まで吹き荒れていた西寄りの風からのうねりが力強く砂浜に打ち寄せている。 人にもよると思うが、暖かい海に慣れた者にはなかなかおどろおどろしくもある。ちょうど海岸線の向きが変わり、風をかわす小さな丘を背負った河口に出くわした。 時折乗れそうな波がブレイクしている。豆をその場で挽き、ドリップしたコーヒーと手づくりのクッキーを片手に割れる波の様子を観察しながら、今後下っていく海岸線の地勢を地図で眺める。 この先は、コーストラインの向きも富山まではしばらく西寄り、今日は完全に風をくらうことになりそうだ。

今朝の1ラウンド目はこのリバーマウスで決まり。ウェットに着替え始めたちょうどそのとき、ローカルの車が一台、駐車場に入ってきた。挨拶を交わし、 他の海の様子をうかがうと、やっぱり今朝はここがいいらしい。この海を知るローカルと一緒に波をシェアできるのは大きな安心だ。

波乗り隊、撮影隊、朝食準備隊、それに子守り隊それぞれに分かれて、日本海での爽やかな朝を各々過ごす。1.5hもすると、波乗り隊は海からあがり、先程までの波の余韻に浸っていたかと思うと、 朝食隊が準備した秋冬野菜たっぷりのスープからは美味しそうな香りと湯気が立ちこめている。smile woolを羽織り、ナチュラルな素材をふんだんに使ったパンと熱々のスープをすすれば、 冷えたからだも少しずつ解きほぐされていく。今朝の1ラウンドはこれにて終了。新たな波を求めて、日本海をさらに西へと車を走らせる。

Great Afternoon

途中、間違いなくこの辺りの海沿い地域のソウルフードであろう、鱈をぶつ切りにして煮込んだワイルドな「たら汁」を腹一杯喰らい、フォトグラファーのカメラに起こったアクシデントもクリアになった頃、 日本海には冬のサンセットが刻々と迫りつつあった。富山湾に沿う幹線に架かる橋をいくつか過ぎると、そのひとつ、右手の河口に白い一本のスジが見えた。 すぐに右に折れ、河口まで近づいていくと、小さいが面のキレイな形のいい波がブレイクしている。事前になにも情報を持たないまま、マップを片手に行き当たりばったりで波を探し求めていたぼくたちは、 少し興奮気味。車の中からしばらくその様子を眺めているとコシハラ程度の綺麗なセットも入ってくる。しかも、ラインナップには人影がひとつもない。

間もなく日の入り。残された時間はごく僅か。みな大声を張りあげながら、急いでウェットに凍える四肢を通していく。 この大声の半分は、見知らぬ土地で幸運にも見つけた無人のブレイクに対する悦びの声。そしてもう半分は、初冬の夕方、乾かぬまま氷のように冷たくなったウェットに袖を通さなければならないときの決意の雄叫びだ。

ぼくらが車を寄せたとき、そのスペースに先に1台車が停まっていた。そして、ブレイクする波を静かに見つめていたスーツを着た同世代のビジネスマンが車から降りてきて、ぼくらに話しかけてきた。
「出張のとき、いつもここを見に来るんです。仕事で来るときばかりなので、なかなかサーフボードは持って来れず……。いつも眺めているばかりで、実はまだここで一度も入ったことがないんです」
明日は金沢方面で仕事らしく、そこに住む友人にボードを借りて向こうでは入ろうと、ウェットだけは持ってきているという。
「1本ボードが余ってるから、彼らと一緒に入ってきたらどうですか?」
最初は躊躇していたものの、彼は「ありがとう」と言って、ウェットに着替え始めた。まだ海には入れない小さな息子の遊び仲間をしなければならなかったので、ちょうどいいタイミングだった。 明日の波に期待しよう。それよりも、同じサーファーとして、ちょっとした彼の積年の望みを叶える手伝いができたことを、ちょっぴり嬉しく思ったりもした。
冬至前の夕方の束の間、みなで波をシェアしながらメローなリバーマウスのブレイクを楽しんだ。波待ちをする背後には、薄らと雪化粧をした北アルプスと飛騨の峰々が、圧倒的な存在感でその地の景観を創り上げている。南房総では決して味わうことのできないダイナミックな景色の中で波に興じれることだけでも、今回ここに来てよかったと思えるモーメントだった。

Epilogue

暗くなるまで波と戯れたあと、一期一会に別れを告げ、冷えたからだを温めるための湯場と寝床を探しにまた車を走らせた。今夜は、キャンピングカーのフラットベッドに加えて、 松林の木の下に張ったテントも寝床になる。温泉銭湯でからだを温めたあとは、近くの粋な食堂で日本海の旬の食材と地元の酒に舌鼓を打った。温泉、美食、銘酒。日本を旅する楽しみは 、就寝前まで夜な夜な続く。

「次は台湾? それともシアトル??」

会話を重ねる度に、これからもトリップの話が仕事話の脱線ついでに持ち上がり、その夢物語を想像し語り合うのに多くの時間が費やされるだろう。でも、アウトドアブランドの打ち合わせなんて、 それでいい。ぼくらは全然遊び足らないのだから。

ほろ酔いの中、まだ冷め切っていないからだを寝袋の中に滑り込ませた。これから先も出逢うであろう、新たな波と美しい景色を夢見ながら。

Early Winter Road Trip

rulezpeeps.com